01-06

2022-02-06

 都がコンフィグを作るのに集中していてその新しい案件の話をちょっと忘れていると、ディスプレイの下の方でポップアップが下山からの添付つきメールの受信を知らせて来た。そう言えばどんな案件なのかきちんとわかっていなかったことを思い出して、作業を中断してメールを開いた。本文には先ほどの件だと言う旨しか書かれていない。件名には顧客名が書いてある。聞いたことのない会社名だ。あとでウェブで調べてみよう。
 営業とのメールをそのまま転送したものではなく、下山が新しく起こしたメールスレッドだった。メールには岸谷がCCされており、名前が菜奈というのも初めて知った。可愛らしい名前だと思った。添付のプレゼンテーションファイルを開いてみると、今回新設されるネットワーク全体の完成図が1枚目のスライドにあった。マネージャーが言っていた通り、拠点数は大したことがなかった。海外に3拠点、国内は、都たちの部署でルーターを設計する拠点は確かに2拠点だが、廉価版のサービスで構築する拠点が15拠点程度ある。これは都たちの責任区分外だが、全体設計を考える上で頭に入れておく必要はあるというのを岸谷に話さないといけないなと思った。

 2枚目のスライドには現在のネットワーク構成、と書かれた図があった。都たちにとってみれば『新規』のネットワークであるが、顧客にとってはキャリア更改ということらしい。国内の拠点のみ他社の閉域網MPLSで繋ぎ、海外拠点は自前のインターネットVPNでデータセンタか本社へ繋いでいるようだ。3枚目にはマイグレーションプランステップ1とある図があり、ステップ2、3と残りのスライドが続いた。このマイグレーションを機に本社かデータセンターのディザスタリリカバリー的な拠点を構築するようで、異拠点冗長、と言っていたのはこれのことだろうと思った。ふーん、と思いながらマウスのホイールを回してスライドの1枚目に戻って見直すと、海外の拠点と国内の冗長拠点のルーターの後ろにはWAN高速化装置が描かれてある。これはSI機器、つまり都たちの部署ではなく、別部署か別ベンダーかが導入するものなのか、都たちの部署で構築するのものなのかはっきりしない。WAN高速化装置があるなんて聞いてないぞ、と思って、マネージャーの席の方を振り返って見たが、マネージャーは別の社員と話し込んでいた。とりあえず、さっき下山からもらったメールに返信で資料のお礼とWAN高速化装置が図にあるけどうちでやるやつですかね、と書いて送った。他キャリアからのネットワーク全体のマイグレ案件としては規模的にも新人には丁度良いサイズの案件なのは確かだった。

 スケジューラの承諾依頼が岸谷から飛んできたポップアップが見えた。明日の16時から17時までとなっていた。普段スケジューラの承諾依頼には返信せずにアクセプトだけするのだが、よろしくお願いします、とだけ書いて承諾を返した。