03-05

03-05
ヒアリングシートについて、下山は当初岸谷に作らせようと思っていたのだが、本プロジェクトでは既存コンフィグから起こさないといけない。今の岸谷のスキルで他ベンダーやお客さん自身作成のコンフィグを読み解くのはハードルが高く、結局都が作ることになった。ヒアリングシート作成は通常のプロジェクトでもSEが担当することが多い。これを依頼してくる時も下山は申し訳ないですが、と断ってから依頼してきた。都は全然やりますよ、と一つ返事で引き受けたが、下山と岸谷にありがとうございます、と丁寧に礼を言われた。もし同じ社員であれば、じゃあ頼むね、の一言で済んだはずだ。
「じゃあ、岸谷さん、間宮さんにいくつか挙げてもらった疑問点をまとめて営業に投げておいてもらえる?あと、既存のコンフィグ手に入ったら共有お願いしますとも書いといて。」
下山は岸谷に営業へメールを一本書くよう指示した。
「はい、わかりました。」
岸谷ははっきりと了解の返事をした。
「じゃあ、今日はお時間いただきましてどうもありがとうございました。」
そう下山がミーティングの終了を告げると、岸谷もありがとうございましたと言って頭を軽く下げた。都は反射的にではあるが、同じようにありがとうございましたと言って軽く頭を下げてから立ち上がった。下山はシンクライアント端末を閉じて、プロジェクターの電源を切り、ディスプレイケーブルをシンクライアント端末から抜いていた。岸谷は少し何か書き足してからノートを閉じ、立ち上がった。
「いやー、設計まとまるのに一山二山ありそうですねー。」
都は下山に感想を述べた。それほど複雑な設計にはならなさそうなのだが、お客のベンダーが構築するインターネットVPNを都たちが構築するWANネットワークのバックアップとして運用するのであれば、そのことで生じるヒアリングの難しさは見えていた。基本既存踏襲で、と言いながらネットワーク構成はかなり変わるのだ。既存踏襲で行けない部分は多くなるだろう。お客側が簡単に考えてしまっているのか、それともこっちへ丸投げする気満々なのかは少し図りかねたが、否応なしにお客のベンダーとの調整をさせられそうだ。
「でしょー?そんな予感しかしなかったんでですね、間宮先生のお力を是非お借りしたく思っておりますので、一つよろしくお願いいたします。」
下山は半分ふざけながらも、お願いしますと言いながら頭を下げていた。岸谷も同じようなちょっとふざけた調子でお願いいたしますと頭を下げる。都はそんなに頼られるような分ではないと、いやいやと言いながら否定の意味で手を左右に降った。
「じゃあ、こんな調子で岸谷がご迷惑をお掛けしますが、」
「ちょっと下山さん、あたし今日何も迷惑かけてません!」
下山の冗談に被せ気味に岸谷が否定した。まるでコントのように被り気味に言ったのがおかしくて都は笑ってしまった。
「でも、お前が本当はメインのPMなんだから、お前がこのミーティング仕切らないといけなかったんだよ。」
下山も岸谷のぐいぐい否定する感じに笑ってしまっていた。
「それは下山さんがー…。」
岸谷は下山が勝手に始めたと主張したかったようだが、おそらくは自分が仕切ったところでこんなにスムーズに進められたかどうか自信がないと思ったのだろう、ちょっと黙ってしまった。
「でも岸谷さんちゃんと下山さんに途中途中でああだったけ、こうだったっけ聞かれてきちんと返せてたじゃないですか。だから下山さんが仕切らなければちゃんと仕切ってたと思いますよ。」
都はフォローのつもりで言ったのだが、逆に新人だがよくわかってるね、と上から目線での物言いになってしまったかもしれない。言ったそばから不安になった。
「ほらぁ!わかってる人はわかってます!」
岸谷は勢いづいて下山に自慢げに食ってかかっていた。その豹変ぶりがおかしくて下山と都は声をあげて笑ってしまった。