04-02

2024-01-27

04−02

 金曜日が定時退社日になっている会社は多いようだが、都が働くこのオフィスもそうだ。昨今の政府の指針、働き方改革に沿う方向性を会社が打ち出していることもあり、定時退社日はきちんと守るようにとうるさくなってきていた。それでも国際閉域網を扱っているオフィスとあって、海外拠点の開通・切り替え工事やトラブル対応だけではなく、海外オフショアセンターとの急ぎの確認などは時差の関係もあり日本の18時で終われないことは多い。それ故このオフィスは必然的に時間外業務が多くなるので他オフィスに比べると残業規制が緩かった。今日の工事のように事前に定時以降の業務がわかっていれば、シフト勤務をして対応することになる。それは自身の健康維持のためだけでなく、不要な残業を減らすという会社の方針に合わせるためでもあった。
 時間外業務の多い職場ではあるものの、金曜日は工事さえなければ極力定時で帰る人が多い。金曜日の夜に予定がある人はたくさんいるものなのだろう、18時半を過ぎればオフィスの中には人がかなり少なくなる。都が事前ログを取り終わった頃には、都の席周辺は誰もいなくなっていた。
 都の机にはデスクトップ端末が2台ある。1台はメールや事務を行うためのもので、通常の社内LANに繋がっておりインターネットにも抜けられる。これは通常端末と呼ばれている。もう1台は都たちが構築する閉域網のバックボーンへ繋がるLANに接続された端末だ。このLANは閉域網のメンテナンスのためにあるネットワークで、どんな社内LANからも切り離され独立しており、もちろんインターネットにも抜けられない。こちらは専用端末と呼ばれている。
 参照必要なシステムや共有フォルダへのアクセスが可能なため、コンフィグやマクロファイルなどは普通通常端末で作成する。それらは実際には専用端末上で使用するのだが、専用端末上へドラッグ・アンド・ドロップで簡単に移すことは出来ない。通常端末上のファイルは仲介するシステムへ一旦アップロードし、専用端末でダウンロードするしかない。この専用端末から客宅ルーターにログインし、設定変更やテスト、ログ取りなど各種作業が行える。場合によってはプロバイダエッジのルーターにログインし、網内のルーティングをチェックしたりもする。都はさっきから工事対象の客宅ルーターにログインし、事前のログ取りをしていたので専用端末に向かいっぱなしだった。都がSEを担当している顧客案件でヨーロッパ1拠点の回線増速プロジェクトがあり、今回のLAN切り替え工事はそのプロジェクトの最終工程だ。
 回線の増速には大まかに言って二通りの増速方法がある。一つは回線キャリアの設備や閉域網プロバイダの設備の設定変更のみで帯域を増やすホットカットと呼ばれる方法。もう一つは既存の回線には手を入れず、新たに帯域の大きい回線を引いてお客のLANのみを切り替えるパラレルと呼ばれる方法。もちろんLAN切り替え後既存回線は廃止する。
 ホットカットは詰まる所単なる設定変更なので、納期も短くする事が出来る。現地お客は物理作業を何もする必要がないので工程も少なくて済むが、万が一失敗した時の切り戻しに時間がかかるという欠点がある。増速してから回線にトラブルが起こった場合、お客の通信が断になったままトラブルシューティングをしなければならない。この状態でトラブルシューティングが長期化すると、お客の温度が上がり易い。かと言って早めに切り戻しては、トラブルの原因究明が難しくなるというジレンマに陥る。ホットカットは大前提として敷設済みの回線が設定変更のみで増速できるインフラである必要がある。
 これに対してパラレル工事は増速後の帯域の回線を新規で敷設する。客宅ルーターも新規で設置すれば、お客の通信に影響を与える事なく増速後の回線試験が出来る。LAN切り替え後にお客のテストでトラブルがあった場合も、基本的にLANケーブルを旧ルーターのLANポートへ差し替えてもらうだけで良い。お客の通信は一旦元に戻しながら、新規回線のトラブルシューティングが可能だ。しかし一時的に二重設備になるため、現地お客にとってはやらなければいけない事が多いという欠点がある。結局新規回線敷設なのだから、回線キャリアの現地調査の立ち合いから始まって、新規回線終端装置及び新規客宅ルーターの設置スペースと電源の確保、お客責任範囲区間で構内配線などの付帯工事が必要であればお客自身での実施、回線敷設時の立会いなど様々な稼働が必要になる。
 そしてLAN切り替え時には客宅ルーターの設置場所へ待機してもらい、プロバイダ側の指示でLANケーブルを旧客宅ルーターから新規客宅ルーターへお客自身で繋ぎ換えてもらわなくてはならない。もし現地お客がITに疎い場合、かなりハードルの高い作業になる。ある機器に刺さっているケーブルを別の機器へ差し替えるというのは、ITに明るかったとしても、何も情報がなければ気軽に出来る作業ではない。間違って抜いてはいけないものを抜いてしまう可能性がある。稀にプロバイダ側の作業員を現地に派遣しサポートすることがあるが、有料オプションでそこそこ払う必要がるので、LAN切り替えのためだけにこれを使うお客はあまりいない。
 今日のLAN切り替え工事はパラレルでの増速回線に対して行うものだ。幸い現地お客は対象拠点のIT担当者で、事前にPMが依頼した切り替え手順も問題なく理解できていた。