05-08
自席へ戻りコーヒーを机に置き、立ったまま通常端末のスクリーンロックを解いてメーラーをチェックする。お客からのメールは来ていなかったし、岩砂は何も声を掛けてこないので、お客テスト完了の連絡は電話でも来ていないようだ。椅子に座ってから専用端末へ向かって客宅ルーターのターミナルウィンドウをクリックする。特に何のログも出ていない。そろそろセッションがタイムアウトしてしまう時間なので、リターンキーを数回押してホストネームだけの行を表示させる。これで入力があったことになるので、タイマーは一旦元に戻る。それから岸谷の回線が収容されているプロバイダエッジスイッチのターミナルウィンドウをクリックする。当該のインターフェイスのコンフィグや状態を確認して見るが、まだ100メガ、全二重の固定設定のままだし、インターフェイスのプロトコルも落ちたままで、こちらも変化はなかった。
岩砂と都のやっているLAN切り替え工事はあとはお客テストの完了を待っているだけだが、他の仕事をしようにもあまり集中できないので、岸谷のトラブルシューティングを少し見守ることにした。さらにもう一つ新しいターミナルウィンドウを開き、さっき岸谷から渡されたメモにあったプロバイダエッジルーターにログインする。コンフィグ全てを表示するコマンドの後ろに、メモにあった回線IDにマッチした行のみ表示させる条件文をたしてリターンキーを叩く。そうするとこの回線を収容する仮想ルーターの名前がわかる。今度はコンフィグ全てを表示するコマンドの後ろにこの仮想ルーターのコンフィグのみ表示する条件をつけてリターンキーを叩く。そうすると客宅ルーターとの接続で使われているIP情報やBGPの設定情報などが見える。岸谷のメモにあったWANのIPアドレスと一致していた。
プロバイダエッジルーターは筐体としては一つだが、複数のお客のネットワークを別々のルーティングとして扱う必要がある。そこでルーターをお客ネットワーク毎に論理的に分割し、お客毎のルーティングを別々の仮想ルーターとして扱う。プロバイダエッジルーター上でお客毎のルーティングや到達性などを確認する時はそれぞれの仮想ルーター上で確認する必要がある。
プロバイダエッジルーター側にアサインされたIPに対し当該の仮想ルーターからpingを打つ。すでに開通作業が始まっているのだから、このお客向け仮想ルーターのインターフェイスは開放されていて到達するのが当然だ。なぜなら仮想ルーターのIPを送信元とするしかなく、また宛先も自分自身になるからだ。しかし稀に開放忘れや、何かのコンフィグ間違いで到達しない時がある。そういった間違いがないか確認するためにプロバイダエッジルーター自身のIPにpingしてみるというのは無意味ではない。この場合も到達性は確認できた。プロバイダエッジルーターのインターフェイス設定には問題がないようなので、客宅ルーターのIPへpingしてみる。プロバイダエッジスイッチのインターフェイスが落ちているので想定通り到達できない。オフショアセンターがプロバイダエッジスイッチの設定を変えてみてどうなるかだ。
都は工事中に到達性をモニタリングするために使っている簡単なマクロをテキストエディタで開いて、pingのコマンドをこのプロバイダエッジルーターの当該の仮想ルーターから客宅ルーターへのものに書き換え、別名をつけてデスクトップへ保存しようとした。ファイル名を何にしようとまた迷ったが、元のファイル名に02と数字を足しただけにした。
プロバイダエッジルーターのターミナルウィンドウでログをとっていなかったので、そのプロバイダエッジルーターのホスト名をファイル名としてログ取得を開始してから、そのターミナルウィンドウでマクロを走らせ始めた。マクロの内容は対象の宛先に5回pingを打って、5秒置いてから時刻表示コマンドを打ち、最初に戻り繰り返す、というもので、延々とpingを定期的に打ってくれる。万が一見逃しても後でログを見れば前後の時刻表示から大体いつ頃到達するようになったかがわかる。
そんな風にマクロを作ったり走らせたりしていたら、都の本来の工事対象のターミナルウィンドウはログインサーバの画面になってしまっていた。再度客宅ルーターへ入り直し、ログ表示が出るようにしたり、時刻表示をしたりしてから、客宅ルーターのメモリに記録されたログを全て表示させるコマンドを叩いた。一気に全部表示しきれなかったので、スペースキーを何回か叩いて最終行まで出力させる。ログの最終行は現地の客がLANケーブルを繋いだ後、LAN側のダイナミックルーティングのピアが上がったものだ。つまりその後はログに表示されるような動きは何もないことになる。都がログアウトしていた時も特に何もなかったということだ。都はコーヒーのカップを両手で持って椅子の背もたれに寄りかかった。後はしばらく待ってるしかなさそうだとカップのトラベリーリットに口をつけた。喉も渇いていたので一杯100円の熱いコーヒーはとても美味しく感じた。