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2022-02-06

 リターンキーを既存客宅ルーター、新規客宅ルーター、どちらのターミナルウィンドウでも数回叩き、ホスト名だけを表示させる。コマンドの前後でこれをやっておくと後でログを見直した時、出力されたログの行間にホスト名しか表示されない行が連続することで見やすくなる。両ターミナルウィンドウで現在時刻を表示するコマンドを叩いたところで、岩砂が現地お客担当者と電話で話し始めた。今日のお客はちゃんと電話で捕まるというだけで今日は順調だと思ってしまう。良く考えると可笑しかった。
 岩砂が電話口で、こっちで既存客宅ルーターのLANインターフェイスを閉塞する、と言っていたので、マウスで旧客宅ルーターのターミナルウィンドウをクリックして、リターンキーを数回叩き、時刻表示から次のコマンド入力までの間を作った。
 「間宮さん、じゃあ、閉めちゃってください。」
 岩砂は電話切ってから都に依頼した。
 「はーい。」
 都は返事をしてからもう一度現在時刻を表示するコマンドを叩き、ルーターのインターフェイスにコンフィグしてある説明文を一覧で表示出来るコマンドを叩いた。岩砂は空いている都の右隣の席に座って、都の専用端末の画面を覗き始めた。
 「じゃあ、LANインターフェイスは、ギガの0/0ですね。」
 確認を求めるよう都は言った。
 「はい。OKです。」
 岩砂は確認した。
 「じゃあ、閉めまーす。」
 都はそう言うと、岩砂のお願いします、と言う返事を聞きながら、ルーターのコンフィグが可能なモードへ入り、さらにLANインターフェイスのコンフィグができるモードへ入った。すると、LANインターフェイスが断になったログがターミナルウィンドウに吐き出された。
 「あ、お客さん抜いたみたいですね。」
 こちらが何もしていないのにインターフェイスが落ちるログが出るのは、ケーブルが抜かれたか、直接接続している対抗機器が何かしらの理由で断になった時だ。状況からお客がケーブルを抜いたと推測できる。続いてLAN側でお客機器とルート交換をしていたダイナミックルーティングのピアが落ちたことを知らせるログも吐き出されてきた。
 「ですね。じゃあ、遠慮なく閉めちゃいましょう。」
 「ちょっと待ってくださいね。」
 都はそう言うと、日本拠点のルーターのターミナルウィンドウをクリックした。ずっと長いことpingが到達していたことを示す感嘆符が連続して表示されていたのが、途中で到達不可になったことを示すピリオドに変わり、それが5つ、6つと連続していた。さっきLANが落ちたところから到達性が失われたのだ。ピリオドが14、5回続いたところで、また感嘆符が次々と表示され、到達性が回復したことを示した。感嘆符の連続2行ほど見送ってから、ping実行をキャンセルするキーの組みわせを叩いてpingを止める。その後経路情報取得コマンドを叩き経路を確認する。冗長ペアである異拠点の客宅ルーターのWANを通って、その拠点のLANを経由し、LANから別プロバイダのネットワークへ抜け、対象ホストへ到達していた。異拠点冗長はきちんと動作しているようだ。
 「冗長、ちゃんと動いてますね。」
 「ですねー。良かったっす。」
 岩砂は安堵したように笑っていた。事前に工事手順を打ち合わせた時に、もし冗長上手くいってなかったら笑いますね、と冗談で話していたのでそれを受けてのことだろう。都もつられて笑ってしまった。
 「じゃあ、遠慮なく閉めます!」
 「お願いします!」
 都は冗長の切り戻りを確認出来るよう日本拠点のルーターで時刻表示コマンドを叩いてから、先程使った1万回繰り返しpingのコマンドをメモリから矢印キーで呼び出し再度実行する。その後既存客宅ルーターのターミナルウィンドウをクリックした。既存客宅ルーターのターミナルウィンドウはインターフェイスのコンフィグが可能なモードに入ったままだ。念のため一旦特権モードまで抜けてから、再度インターフェイスの説明文一覧でLANインターフェイスを確認する。時刻表示コマンドを叩きインターフェイスをコンフィグできるモードへ入り直し、LANインターフェイスを閉塞した。今度は管理者権限でLANインターフェイスが閉塞されたことを示すログが吐き出された。LANインターフェイスが断になるか閉塞するかしてしまえば、WAN側でプロバイダエッジルーターには一切のルート広告が止まるような設計にはなっているが、念のため何も広告しないようにするフィルタも設定する。
 「ライトしちゃいますね。」
 都はそう言うと、コンフィグするモードから抜けて、ルーターのメモリ内に保存されているコンフィグと、現在ルーター上で読み込まれているコンフィグの差分を表示するコマンドを叩いた。差分はLANインターフェイスが閉塞されていることと、WAN側のルーティングプロトコルであるBGPで何も広告しないようにするフィルタが追加されたのみだ。もしこの状態でルーターの電源が落ちて再度電源が上がった場合、メモリ内に保存されたコンフィグが読み込まれて立ち上がってくる。そのため閉塞したはずのインターフェイスは開放された状態となってしまう。後日現地お客が何かのはずみでケーブルの接続を間違えた時に、状況によってはお客のLANから客宅ルーターのIPには疎通出来るが他拠点への通信が出来なくなり、プロバイダの保守が故障申告を受けた時に混乱を招く事態になりかねない。なのでこう言う切り替え時にはインターフェイスを閉塞したコンフィグはすぐにルーターのメモリへ保存しておく方が良い。保存するコマンドから、ライト、と呼ばれている。