01-05

01-05
「間宮さん、岸谷はこいつです。」
「こいつって。」
笑いながら下山の紹介に突っ込んだその声は、元気一杯の大きな声のそれだった。都は振り向いて立ち上がりながら顔を確認した。ルーズウェーブのセミロングの髪に大きな瞳、そのハリのある肌を見なくても溢れ出てくるような若さ。溢れ出るような若さ、なんてものはただの表現だと思っていたのだが、まるで瑞々しさが細かい粒子で噴き出てくるようだ。自分は本当に歳をとったんだと都はちょっとしょんぼりしそうになった。活気に満ちた子で、どちらかと言うとアフタービジネスアワーで本領を発揮するようなタイプに映った。
「岸谷と申します。よろしくお願いいたします。」
しかし挨拶はびっくりするほどきちんと丁寧にする子だった。一旦背筋を伸ばし、都の目を見て挨拶をすると腰を折って礼をした。結構な一流企業として知られたこの会社に新卒で採用されるのだから当たり前と言えば当たり前だが、夜になったら弾けそうな印象とは真逆な気がしてやはり違うんだなと思ったりもした。
「間宮です。よろしくお願いします。」
都も両手を前に重ね礼をした。
「岸谷は間宮さん知らなかったの?」
下山が聞いた。
「いえ、お名前だけは伺ってました。とても頼りになるSEさんだ、って。」
都は反射的に苦笑いしながら否定の意味で手を振った。それにしてもかなり遊んでそうな子なのだけれど、その大きな瞳はとても真っ直ぐだった。
「そう、とても頼りになる人だからといって頼り過ぎないようにね。」
「はい、もちろんです。」
下山の冗談めかした小言にも真面目にハキハキと岸谷は返していた。こんな大きな会社に新卒で採用された子の教育なんて、万年派遣社員の自分がどんな顔をしてやればいいんだ。この子は自分より10前後年上の人間が派遣社員としてここで働いていることをどう思うのだろう。いろいろ不安が頭を巡るが、都はなんとなくこの子はいい子なのかなという印象を持った。
そのプロジェクトについて明日午前中に営業とのキックオフがあり、それは下山と岸谷とで電話会議で出るそうだ。その日の午後にでもその電話会議の内容を踏まえて都に案件の概要説明などをしたい、注意点や気づきがあれば意見を出して欲しいと言う。都は岸谷にその案件説明のスケジュールについて明日午後の都合を聞かれたので、岸谷と下山の都合が合うところで設定してくれて構わない旨答えた。岸谷はありがとうございます、スケジューラを後で送りますねと笑顔だった。
「じゃあ、見ての通り、ぐいぐい来る系でちょっとご迷惑をお掛けするかもですが、よろしくお願いします。」
「ちょっと、下山さん、どう言う意味ですか、それ!」
下山の冗談にぐいぐいと迫っているので、下山にそういうとこだよと笑われていた。ひどい!とすかさず返す岸谷に、都も笑ってしまった。