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始業前の25分前には電子タイムカードを鳴らせるよう、オフィスへ到着するようにしている。すでに来ている人は何人かいるし、課長陣は始業前の会議を会議卓で始めている。みんな早めに出社することを習慣としている人たちなのだが、明らかに早過ぎるほど早く出て来ている人もいる。都が夜間工事対応などで夜から朝まで勤務していると、始業の3時間近く前から出社していたりする。その人の業務にはシフト勤務は必要ないし、残業もほぼいらないと聞いた。家にいるのが嫌いなのかもしれない。始業までは新聞や雑誌を読んでいる。
起動し切るのに時間のかかる低スペックのファット端末ではあるが、メールをチェックし始める頃にはまだ始業15分前を切ってはいない。派遣の時給は15分単位で計算することになっているのだから、この15分は稼働が発生していると主張できないこともないだろうが、業務命令もないのに始業前から業務をしていることが命令違反だとなり、結局派遣社員側の立場が悪くなる。業務をできるだけ前倒しでやって、さっさと帰りたい。そのための一助だと割り切っている。
重たい誤送信防止アドオンのせいでやっと起動し終えたメーラーの受信トレイに、海外のオフショアセンターからのメールがいくつか新規で受信されている。こちらから進捗を伺ったメールに対する返信なのだが、確認中だ、アップデートあり次第連絡する、という内容を異口同音に伝えるメールしかなく、別の担当者に聞いているのに同じ人間が返しているのかと思えるくらい一様な内容だ。都はSE業務だけをやっていて、プロジェクトマネージャーとして仕事をしているわけではないので、基本的にCCされているメールを見ているだけだが、毎度この調子だ。プロジェクトマネージャーだったら気が狂いそうだと都は思うが、PMのみんなは慣れてしまっているのもあるし、そもそもPMができる人間は心が頑強で良い意味での鈍感力もあるからこういうのは平気だ。こまめな進捗報告を常とする日本流の細やかさが当たり前になっている顧客からは、進捗状況を把握できていない、ベンダーコントロールの出来ない会社だと詰られることもあるのはよく耳にするが、グローバルスタンダードなんてそんなもんだと内輪で笑って、外では頭を下げ続けるしかない。
この状況で正社員の人たちはよくモチベーションを保ち続けられるものだと不思議に思うこともあるが、派遣社員は実務そのものしか見ていないからそう感じるのかもしれない。会社の人間として、もっと大局的見地で仕事そのものを俯瞰することができれば、こういった毎日同じようなメールしか送ってこない海外のオフショアセンターに対する思いというのも違うのだろう。派遣社員からすれば、こと進捗確認については、使えない、期待できない、と言ったネガティブなイメージがつきやすいが、オフショアセンターのスタッフ個々人の資格上のスキルはとんでもなく高かったりする。事実、トラブルシューティングにおいて時折びっくりするくらいの活躍を見せ、さすがだと唸ってしまうこともある。ネガティブなイメージは日本的な仕事のスタンダードから見ればそうかもしれないが、違うスタンダードから見ればそんなことはないとも言える。